2026.8.20

Webの役割を野外広告、展示など

画面を越え価値をつくった7つのプロジェクト。

プロジェクトごとに、必要な表現や接点は違います。言葉、映像、Web、グラフィック、展示、サイネージ。何を、どこで、どう届けるかによって、選ぶ手段も変わります。
今回取り上げる7つの実績は、その違いがよく見える仕事です。複数の接点が登場しますが、組み合わせ方はどれも同じではありません。

ある仕事では、Webでつくった世界観が展示や新聞へ広がりました。ある仕事では、Webのためにつくった制作ツールがCMや大型ビジョンにも使われました。リアルな場とは別の役割をWebに持たせた仕事もあります。
一つずつでは見えにくい違いも、横に並べると見えてきます。何を共通させ、何を媒体ごとに変えたのか。Webに何を任せ、リアルな場に何を残したのか。7つの仕事を見比べます。

7つの仕事を、ひと目で。

・KAI DESIGN Dept.(2025)|Web・展示・新聞
・大丸松坂屋「百様図」(2025)|Web・CM・サイネージ
・ARTIZON MUSEUM「エットレ・ソットサス」(2026)|展覧会・Web・映像・大型ビジョン
・IKEA「SUKIMA GALLERY」(2012)|街中のイベント・Web
・UNIQLO「UT 2013」(2013)|POP-UP STORE・プロジェクション・Web
・デザインあ展(2020)|番組・展覧会・Web
・GYRE GALLERY(2019–)|展示・Web

同じように複数のメディアが関わっていても、共通させているものも、各メディアに任せている役割も違います。

同じものを、別の媒体へ移すわけではない

最初の2件は、プロジェクトの中で生まれたものが、別の媒体へ広がった仕事です。
KAIで広がったのは世界観。百様図で広がったのは、表現を生み出すための仕組みでした。

貝印「KAI DESIGN Dept.」(2025)

世界観を、展示と新聞へ

「KAI DESIGN Dept.」は、貝印のデザイン哲学を広く伝えるためのプロジェクトです。

個別の製品を紹介するだけでなく、企業全体のブランディングへ寄与することが求められていました。そこで、自社工場への視察やデザイン部メンバーへのヒアリングを重ね、ものづくりの美学や価値観を整理。メインコピーとステートメント、貝印のデザインを支える三つの視点「美の印」を定義しました。

Webサイトでは、その考え方を文章だけで説明するのではなく、製品の切れ味や使いやすさ、プロダクトとしての美意識を体感できる表現を検討しました。映像制作の段階からWeb上での挙動を想定し、ユーザーの操作によって映像に介入できる「さわれる映像」を制作。WebGLやBlenderも用いながら、製品に触れているように感じられる体験を目指しています。

🔗貝印|KAI DESIGN Dept.のプロジェクト詳細はこちら

▲ 矢吹監督との映像撮影中の一幕。光の反射を極力避けるため、壁にボウルを貼り付けて撮影。
▲ BlenderとWebGLによる被写界深度のエフェクトを実装

そして、制作したWebサイトは別のメディアにも展開しました。

貝印のコンセプトデザイン展示「切れ味とやさしさ展」では、会場で流れる縦型サイネージ映像を制作。展示空間に適した見え方を検証しつつ、Webサイトと同じ世界観で仕上げています。また、このプロジェクトで策定したデザインフィロソフィーは、日本経済新聞の広告にも掲載されました。

サイネージと新聞広告は、プロジェクトを進めるなかで派生的に生まれました。Webサイトに閉じず、展示空間や紙面など、それぞれの媒体に合わせて最適な見え方を検討。Webを起点にしながら、メディアを越えて貝印のデザインを届けていきました。

▲ Kai Design展「切れ味とやさしさ」展会場のサイネージ
▲2025年11月18日の日本経済新聞に、デザインフィロソフィーが掲載されました

大丸松坂屋「百様図」(2025)

「つくる仕組み」を、CMと大型ビジョンへ

大丸松坂屋の新しいビジュアルアイデンティティ「百様図」は、日本デザインセンターの三澤研究室によって制作された、5枚の紙が重なり、動くことで無限のパターンが生まれる動的な模様です。

このVIを、Webサイト上で「体験」できないか。紙の重なりやずれ、わずかな抵抗感まで画面の中で感じられるようにし、「百様図」が持つ構造のおもしろさや無限性を、言葉だけに頼らず伝えることを目指しました。

そのために開発したのが、百様図専用のWebGLツールです。

紙の大きさや色、穴の形状、重なり方、カメラワーク、アニメーションなどを設定し、その結果をWebサイトへ反映できる制作フローを構築。三澤研究室のデザイナーと、実装されたテストサイトを実際に触りながら、柄や動きの精度を調整していきました。

🔗大丸松坂屋|百様図 特設サイトのプロジェクト詳細はこちら

▲ 三澤研究室の皆さんと、実装されたテストサイトを触りながら、紙の動きを確認
▲ WebGLで独自ツールを開発。ツール内で紙の配置からアニメーションの作成まで行いました

このツールはWebサイトだけに使われたものではありません。

百様図のプロモーションでは、TV CM、TVer CM、百貨店内のサイネージ、駅構内の大型サイネージも制作。Web用のツールを動画編集用に改造し、映像制作にも活用しました。

一方で、Webと駅構内の大型ビジョンでは、見られる距離も画面サイズも異なります。実際の投影サイズに近い状態でプロジェクターを使って検証し、柄の大きさや文字サイズをそれぞれ調整しました。

▲ 大阪梅田駅構内で流れる「百様図」のサイネージ
▲ WebGLで作ったツールで、テレビCMやTVer CMを制作

2つを並べると、同じように複数の媒体へ展開した仕事でも、何を引き継いだのかが違うことに気づきます。

KAIでは、デザインフィロソフィーや世界観を保ちながら、展示空間や新聞という別の接点へ。百様図では、完成した表現ではなく、それを生み出す制作ツールそのものがCMやサイネージへ広がりました。

「同じデザインを別の画面に載せる」だけではない、異なる広がり方が見えてきます。

ARTIZON MUSEUM「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」(2026)

色と形のモーションを、映像と街へ

アーティゾン美術館で開催された「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」展のWebサイトを企画・制作しました。
作品に宿る鮮やかな色彩と幾何学図形を抽出し、モーショングラフィックとして表現。展覧会の作品をそのまま並べるのではなく、ソットサスらしい色と形が動きながら展開することで、Web上にもうひとつの入口をつくりました。
さらに、Webサイトに続いてプロモーション動画も制作。その映像は、道玄坂と文化村通りの交差点にある「渋谷メガウォール」でも放映されました。
Webで立ち上げた色と形の動きが映像になり、街中の大型ビジョンへ。共通する表現を軸にしながら、接点を画面の外へ広げています。

🔗ARTIZON MUSEUM|エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれるのプロジェクト詳細はこちら

▲ 「ARTIZON MUSEUM|エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」Webサイト
▲ 渋谷メガウォールでの放映の様子
▲作成した動画

リアルがあるからこそ、別の役割をつくる

次の2件は、街中のイベントや展覧会と、Webが並行して存在する仕事です。リアルをそのまま画面へ移すのではなく、それぞれの接点に別の役割を持たせています。

IKEA「SUKIMA GALLERY」(2012)

点在する14のGALLERYを、ひとつにつなぐ

2012年夏に開催されたIKEA「SUKIMA GALLERY」は、街のビルとビルの隙間や階段の下などを利用して家具を展示したイベントです。

「ちょっとのスキマでもアイデア次第で、素敵にコーディネートできること」を体感できる14のGALLERYが街中に展開されました。

スペシャルサイトでは、街中に現れたそれぞれの「空間」を、キャストを含めたビジュアルで紹介しました。さらに、街を感じさせる環境音をベースにしたBGMを加え、Web上でもイベントの空気に触れられるようにしています。

各GALLERYページには「いいね」ボタンも設置されていました。クリックすると、そのGALLERYで使用されているアイテム一式分を購入できるIKEAギフトカードが抽選で当たるキャンペーンに参加できる仕組みです。

ここでは、街中の14の展示とWebが連動し、リアルな空間をオンラインでも見せながら、キャンペーンへの参加までつなげています。

🔗IKEA|SUKIMA GALLERY のプロジェクト詳細はこちら

▲ IKEA|SUKIMA GALLERY のウェブサイト

UNIQLO「UT 2013」(2013)

会場で生まれた映像を、その場とWebへ

2013年の「UT」では、撮影した動画をユニークなアニメーションに変換するスマートフォンアプリ「UT CAMERA」を軸に、POP UP STORE、TV-CF、店頭モニター、Webサイトなど、複数のメディアでコミュニケーションを展開しました。
弊社が担当したのは、WebサイトとPOP-UP STOREでのプロジェクションです。会場で「UT CAMERA」を使って撮影された動画は、その場のプロジェクションに投影されると同時に、Webサイトにも反映。世界各地で撮影・投稿された映像を見たり、気に入った作品にLIKEしたりできる仕組みをつくりました。UT POP-UPは渋谷を皮切りに、ニューヨーク、台湾、パリ、ロンドン、シンガポールなどへ展開。Webサイトでは各地のイベント情報を伝えながら、投稿された映像を活かし、会場の臨場感や参加者がアプリを楽しむ様子が伝わる構成を目指しました。

ここでは、リアルな場で生まれたコンテンツがその場の演出になり、同時にWebにも蓄積されていきます。会場とWebを行き来する仕組みそのものが、体験の一部になった仕事です。

🔗UNIQLO|UT 2013

▲ UT POP-UP会場の様子
▲ 世界各地から投稿された映像が並ぶWebサイト

デザインあ展(2020)

展覧会を再現せず、もうひとつの体験をつくる

「デザインあ展」のWebサイトは、NHK Eテレの番組「デザインあ」が展覧会として開催された際に制作したものです。

このWebサイトは、番組で見る「デザインあ」と、会場で体験する「デザインあ」の「あいだにあるもの」と位置づけました。

シンプルで明快なデザインをベースに、シンボルである「あ」のロゴを活かしたインタラクションを実装。情報を確認するためだけのサイトではなく、つい動かして見ていたくなるような仕掛けを目指しました。

展覧会の内容を画面の中にそのまま置き換えるのではなく、Webでは「デザインあらしい体験」を、触って動かせるインタラクションとして表現しています。

🔗デザインあ展 のプロジェクト詳細はこちら

▲ 「デザインあ展」Webサイト
▲ スクロールにあわせた、さまざまなモーション

IKEAでは、街中に点在する14の空間をひとつにつなぎ、参加への入口をつくる。デザインあ展では、番組と展覧会のどちらでもない、触って遊べる体験をつくる。

リアルとWebを同じ内容に揃えるのではなく、それぞれの接点だからできることを考える。2つの実績には、そんな違いが見えます。

同じギャラリーでも、同じつくり方をしない

GYRE GALLERY(2019–)

展示が変われば、伝える切り口も変わる

最後は、表参道・GYRE GALLERYのプロモーションサイトです。

私たちは数年にわたり、GYRE GALLERYで開催される各展示のプロモーションサイトを継続して企画・制作してきました。

現代アート、工芸、ファッション、デザイン、建築。展示ごとにテーマも作品も大きく異なるため、すべてを同じフォーマットで伝えるのではなく、その展示の個性に合わせて「最適な切り口」を探り、プロモーションのアプローチを変えてきました。

実際にいくつかの展示を見比べると、その違いが分かります。

落合陽一「山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(2018)


ロングインタビューで、作品の中へ入る

落合陽一氏の個展では、作品群が内包する複雑な世界観を分かりやすく届けるため、本人へのロングインタビューを主軸にコンテンツを設計しました。

作品や会場の様子は、あえて断片的に切り取った写真や動画で構成。落合氏本人に案内されながら、一緒にギャラリーを巡っているような没入感を目指しています。

また、展示を訪れる前の期待感や理解を高めるだけでなく、鑑賞後に余韻を反芻し、思考を深めるためのコンテンツとしても機能することを目指しました。

🔗GYRE GALLERY|落合陽一、山紫水明∽事事無碍∽計算機自然 のプロジェクト詳細はこちら

▲ 落合陽一「山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」
▲ 写真・映像を断片的に見せながら、ロングインタビューを読み進める構成

名和晃平 個展「Oracle」(2020)


モノローグで、作家の思考へ近づく

名和晃平氏の個展「Oracle」では、作品をつくり続ける理由などについての思いを、本人の言葉によるモノローグとして表現しました。

目指したのは、「展示に至る思考がダイレクトに伝わること」。同じように作家本人の言葉を扱っていても、落合氏の展示のようなインタビュー形式ではなく、名和氏の視点に入り込むような構成になっています。

🔗GYRE GALLERY|名和晃平 個展「Oracle」 のプロジェクト詳細はこちら

▲ 名和晃平 個展「Oracle」
▲ モノローグを軸に、名和氏の視点へ入り込むように構成

「未来都市シブヤ:エフェメラを誘発する装置」(2024)


対談と「カオス」の動きで、都市を読む

「未来都市シブヤ」では、対談や展示作品から、渋谷の再開発についての未来を紐解く特設ページを企画・制作しました。

表現の軸になったのは、アートと建築が交差する渋谷と、その「カオス」です。デザイナーの渡辺は、「渋谷の『カオス』をコンセプトにしたことで、無限の可能性が広がった」と振り返ります。

開発を担当した須多は、大量の画像が切り替わる「ガチャガチャした動き」を初期段階から構想。切り替わるタイミングやデュレーション、ランダム性を何度も調整し、現在の動きへと仕上げていきました。

🔗GYRE GALLERY|未来都市シブヤ:エフェメラを誘発する装置 のプロジェクト詳細はこちら

▲ 「未来都市シブヤ:エフェメラを誘発する装置」

「衣・食植・住 “植物が命をまもる家となり、命をつなぐ食となる”」(2023・2025)


旅の記録から、展示の背景へ遡るむ

全3回にわたって開催された「衣・食植・住」では、第1回「麻」、第2回「藁」、第3回「お米」と、それぞれのルーツを辿り、野村友里氏らが日本各地の職人を訪ね歩いた旅の記憶をコンテンツにしました。

写真と映像を編み込み、その土地の空気や手仕事のぬくもり、交わされた言葉の温度を感じられるように構成。「一冊の紀行文」のように旅の記憶を綴り、ギャラリーでの鑑賞体験と、日本の風土や暮らしの原風景を接続することを目指しています。

PMの堀江は、Webサイトと映像の企画が、展示内容が固まる前から始まっていたと振り返ります。野村氏の取材にも同行し、人や土地との出会いから、展示として結実していくまでをチームで記録していきました。

🔗GYRE GALLERY|衣・食植・住 "植物が命をまもる家となり、命をつなぐ食となる" のプロジェクト詳細はこちら

▲衣・食植・住 "植物が命をまもる家となり、命をつなぐ食となる"
▲ 土地と人を訪ねる旅の記録を、縦に読み進めていくページ

GYRE GALLERYだけを見ても、伝え方は固定されていません。

落合陽一氏の展示ではロングインタビュー、名和晃平氏ではモノローグ。「未来都市シブヤ」では対談と都市の「カオス」、「衣・食植・住」では土地と人を巡る旅の記録を中心に据えました。

同じギャラリーだからこそ、違いがはっきりします。「展示情報を載せる」という型から始めるのではなく、その展示で何を伝えると体験が深まるのかを考え、コンテンツのつくり方そのものを変えています。

7つを並べて見えた、3つのこと

7件を一枚の記事で並べると、違いは大きく3つの視点から見えてきます。

1. どこから広がったか
KAI、百様図、ソットサスでは、プロジェクトの中で生まれた世界観や仕組み、表現が別の媒体へ。IKEA、UT、デザインあ展では、リアルな場とWebの関係そのものをそれぞれ違う形で設計しています。GYRE GALLERYは、展示ごとにWebの役割そのものを組み直しています。

2. 何を共通させたか
KAIでは世界観、百様図では制作の仕組み、ソットサスでは色と形のモーション。IKEAではイベントの空気と参加の導線、UTでは参加者が生み出す映像、デザインあ展では「デザインあ」らしさ。共通させるもの自体が、案件ごとに違います。

3. それぞれの接点に、何を任せたか
触って感じる。生成する。街へ届ける。点在する体験を束ねる。場とWebを行き来させる。遊ぶ。読み解く。媒体が増えたことではなく、それぞれに違う役割を持たせたことが、7つの仕事に共通しています。

一見すると似ている「複数のメディアをまたぐ仕事」も、並べてみると、その中身はずいぶん違います。
先にあるのは「Webも展示もつくる」という組み合わせではなく、そのプロジェクトで何を伝え、どんな体験をつくるか。そのために必要な接点を選び、役割を分けていく。7つの実績を横断して見ると、そんなつくり方が具体的に見えてきます。

つくることではなく、課題の解決が目的です。ぜひお悩みからお聞かせください。

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