2026.7.1

純度の高い、なにか。

——AYANAに注いだ18ヶ月から
見えたもの

バリの朝、7:00。
みんなで、森の中を歩いていた。鬱蒼とした熱帯雨林を、リゾートの端から端まで、自分の足のスピードで、2時間ほど歩いたという。空気は、もう湿っている。陽が高くなる前の、やわらかい光が、葉のあいだから差し込む。木々の隙間からは、ときおり海が顔をのぞかせ、そのすき間を抜けて風が吹いてくる。まだ人影のまばらなリゾートを、自分の足で、自分の目で見ていく。隣で、フォトグラファーの加藤氏と行武氏がシャッターを切る。撮ったそばから色がつき、PCへ届きはじめる。葉擦れの音、風、光——歩いて感じた温度が、そのまま写真に収まっている。

この瞬間が、すべての始まりだった。

公開から約2年が経とうとしている。取材は、1年前の3月某日。編集しているいまは、朝顔が元気よく咲いている今年の6月。随分と寝かせてしまった。これを書ききらなければ、きっとバリには行けないのかもしれない。

メンバー

話し手

米道 昌弘

米道 昌弘

AD

岡部 健二

岡部 健二

TD

須多 望

須多 望

Dev

山﨑 末鈴

山﨑 末鈴

De

渡辺 俊

渡辺 俊

De

山下 亜加里

山下 亜加里

Dev

堀江 由利子

堀江 由利子

執筆

楠本 莉沙

楠本 莉沙

Dir

撮影

岡部 健二

岡部 健二

TD

目次

第一章 共につくるひとたち ——評価と期待

公開後、反響は数字にも、言葉にもなって返ってきた。SNS、『WEB Designing』企画、クライアントからのフィードバック。数ある「評価」のなかで、一番うれしかったのはどの瞬間か——?想像していた答えは、外向きのものだった。どこかに取り上げられた、誰かがバズらせたなどのこと。でも、彼らの記憶に深く残っていたのは目の前で直に感じた喜びだ。

堀江 由利子

堀江 由利子

クライアントさんとの食事会で、『モデルコースがすごくよかった』と。雑誌的な編集が効いていると自分でも思っていた分、認めてもらえたのがうれしくて、数分単位でクライアントさん含め、辻褄を合わせながら作ったページだったので、なおさらでした。

渡辺

渡辺

ガイドマップを提案したとき、『これいいじゃないですか!』と。しかも、現地で実際に使われていると聞けた。作って終わりじゃない。ちゃんと使い続けてもらえている。それが、作ってよかったと思える瞬間でした

このガイドマップは、GPSに対応しているので、本当に“地図として”機能する。日本にいると確かめようがなかったけれど、クライアントさんが『ちゃんと動いてます!』と、海を越えてリアルタイムに見せてくれた。あの感動は、海外案件ならではだ。

そして、米道が口を開く。冒頭の、あのバリの朝の話だ。

米道

米道

ロケハンの初日の朝、かな。クライアントに誘われて、2時間くらいかけてリゾートをぐるりとした。自分の足で、自分のスピードで見るのが、一番自分の目線で広大な敷地内を理解できる、肌で感じられるからとおすすめされて。戻ってきて昼食の合間に、加藤さんと行武さんが撮ったものにその場で色をつけて、一枚ずつ見せてくれて。それが、めちゃくちゃよかった。
スナップ的に1、2時間撮っただけなのに、波の音、風、湿度——歩いて感じた温度が、ぜんぶ写真に詰まっていた。まだ方針の“ほ”の字も考えていないとき、です

現地は、文句なしに魅力的な場所だった。行って歩いて、初めてわかる。なのに、それがサイトやSNSには出ていなかった。受け取れるものが、少なすぎた。最初のサイトだけでは、AYANA BALI の広さは伝わらずその場に行くこと、そして自分の足で歩くことで『こんなに広い場所だったんだ』とわかる。

リニューアルしたサイトは、その実感を画面に落とし込む作業だった。

ここから先は、地道に積み重ねていく長い方針策定、情報設計。他社が想像する倍の時間をかけて、プロジェクトの「大黒柱」を立てていく。編集チームの方も現地に同行したので、方針策定資料に込めた言葉まで温度を帯びていた。

そしてガイドマップは、方針の時点から化けた。Googleマップそのままのような初稿から、多くの手が入り別物になった。最大の分岐点は、前述にもあった「GPS」だ。

渡辺

渡辺

正直、最初は『そこまでいらないんじゃ』と言ったんです。入れたら地図がやり直しで、作り込んだ完成度を保てるか、怖かった。でもやってよかった。実際の座標とほぼ合っていて、地図と並べたとき『おお、ほぼ一緒じゃん』って。あれは、しびれました。

第二章 静かな狂気 ——ADが背負うもの

時間は有限だ。それを、米道は身体で知っている。そばで見ていると、その確信が静かに伝わってくる。どこまで一人で突っ走るんだろう——見ているこちらの足が、ときどきすくむ。だが、そんな暇はない。私たちが息を吸っているあいだにも、彼は手を動かし、検証を重ねている。途方もない道のり。それでも必ず終わりはくると信じてやめない。励ますでもなく、引っ張るでもなく、ただ手を動かし続けるその姿に、気づけば私たちも背中を押されている。

山﨑

山﨑

思うことが多すぎて、何から言えばいいか。ただ、底知れなさは、すごく感じます。私が『やり切った』と思っても、米道さんの“やり切った”は、はるか遠くにあるんです。私が疲れて足を止めるところで、あの人はまだ歩いている。考えている量が、桁違いで...

これを「根性」の一言で片づけるには惜しいと思ってしまう。もっともっといい言葉がないか。と私は探した。だが、当の本人はあっさり認める。

米道

米道

最後は、根性です。体力がある方だとは、まったく思っていません。ただ——、いいアウトプットの“気持ちよさ”を、一度でも味わってしまうと、そこに届かないと嫌だ、という自分が出てくる。1ページに、めちゃくちゃ時間も体力も使う。それが30ページ、100ページとなる。いま30パーセントしか入っていない1ページの後ろにまだ70パーセントと、さらに100ページが控えている。絶望みたいなラリーです。
でも時間は有限だから、やるしかない。あの気持ちよさを味わってしまったら、最後。自分の中に、基準ができる。その基準は、放っておくと勝手に高くなります。だから、効率的にやるのをわざと止めて、不効率になりにいく。そういう部分が、確かに、あります。

そしてTD 岡部に、AD米道はどう見えているか尋ねた。

岡部

岡部

やる男だ、と思います。でも、僕とは違う。僕は『効率的にやっちゃおう』と考えるので。

そうやって対極的なことをさらっと言ってしまう彼にも違ったこわさがある。

第三章 緻密という鋭さ ——TDが背負うもの

AYANA の実装は、見た目以上に深い。全体に効く波の演出、膨大なページ群、それを束ねるCMS、位置情報まで拾う地図。これを、楽しそうに作る人たちがいた。この「楽しそう」は、岡部の裏側にある緻密さの裏返しだ。高いクオリティを決められた期日に、必ず出す。「ほかに選択肢はない」背水の陣という状況のなかで行う「徹底した管理」。その硬い土台があるから、表は楽しげに見える。

山下

山下

私はまだ、岡部さんのプロジェクトしか知らないんですがタスクを細かく割ってくれるので、それを一個ずつ潰していくことが、楽しくて。『ここまでできました、次やります!』と報告するのが、ゲームみたい。後半は別案件と重なってぐちゃぐちゃになりかけたんですが、岡部さんが軌道修正してくれて。きついけど、振り返ると楽しい。そういうプロジェクトでした

手綱を握られている安心感がある。『この範囲からはみ出さなくていい、ここで全力でやろう』と。
——岡部の想像を超えてやろう、とは思わないかとエンジニアの須多に聞く。「細かいところでは、ありますよ。最初はもっと派手な演出を作ってみたり」と笑っている。そしてあのサイト全体に施された波は、最初からあの方向だったわけではない。

岡部

岡部

見えていたわけじゃない。あちこち試して、その中にたまたま『これは良さそうだ』というのが見つかった。狙った、というより、たまたま、です

でも、その"たまたま"は魔法じゃない。そこに辿り着くために、何十通りも並べて、選び抜く。傍からは才能に見えるものの正体は、この地道さだ。

岡部は、春というより冬の気配を忍ばせた秋に吹く風みたいな人だ。一見、みんなを包み込むような柔らかい存在。だがその先で待ち構えるのは、120%を追い求める厳しい目と、徹底的な管理だ。だからこそ演出ができる。『こっちの方がいいよね..!』——あえて難しい方を、目を輝かせて持ってくる。もちろん、そっちの方がいい。でもそれは、エベレストを登りきると宣言するのと同じことだ。それを期日に間に合わせ、120%のクオリティでやり遂げてしまう。
着実さと遊びを両立させるということは、血の滲む毎日があるということだ。

第四章 優秀な一人だけでは、届かない

海外案件、しかも4言語のウェブサイト。

米道

米道

大変は大変だけど、『意外とできるんだ』と思えた。それが、収穫でした

クライアントさんのあたたかさに救われた初の海外案件。毎朝『おはよう、いい一日を』と一言添えられた連絡。こちらが焦っているときも、『大丈夫、頑張ろう』と話してくれる。日本にはない海外ならではのカルチャー、いや AYANA のカルチャーだった。

デザイナーには、涙した日もあった。社内確認で「全然ダメだ」と返され、1週間後にもう1度それが待っていた。あの時の感情を誰も細かくは覚えていないが、本当に一瞬の出来事だった。そこへ辿り着くまでの過程こそが、成長そのもの。諦めるという選択肢はなかった。

山﨑

山﨑

米道さんはずっと『世界一のサイトを作る』と言っていた。このサイトは、作りながら挫折する体験でもあった。でも、入社すぐに “世界一を目指す” を経験できたのは、本当によかった。米道さんの力は、何においても大きすぎるんです。底知れなさを間近で見られたのも、世界一の基準をもらえたのも、財産です

しんどかった時間を、上司を、「財産」と言い切る。
そう言わせるADも、言い切る本人も、ただ者ではない。

米道

米道

覚えていることのひとつが、山﨑さんが見つけてくれたfigmaの機能。ちょうどFigmaでのデザインにも慣れてきた頃で、縦に長いストーリーみたいな構成にして比率を全ページで3分の1に固定し直して整理した。全ページの比率をそろえたことで、複数の構成案を並べて比較・整理しやすくなった

渡辺

渡辺

構成違いを横に十いくつ並べて、どれがいいんだろう、ってチクチクとやった記憶があります

米道の力が大きかったのは、事実だ。でも、山﨑、渡辺がいなければ、世界一のサイトには届かない。それは実装も同じ。長く、大きなプロジェクトでは、優秀な一人だけではより遠くには届かない。頑張っても、無理な瞬間が必ず来る。チームは、そのためにある。『早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで』

そして最後に、反省を聞いた。

米道

米道

嫌なことって、すぐ忘れちゃうんですよね(笑)。デザインとしては、それぞれが持ち場を作って、やり切った。だから、よかったと思っています。」そう言った後、すぐに彼は自分自身の弱さを見せた。僕の課題は——、最初から、いま辿り着いている場所に行けるようになること。みんなの底上げ。もっと早く、もっと楽に。近道とは言わないけど、楽できるところを増やしたい。

そして彼は、さらに純度の高い本音を漏らす。

米道

米道

行き詰った夜中に『助けてくれ』と言える仲間がいた。その心強さはやっぱり大きい。

あとがき

純度の高い、なにか。根性か、基準か、チームか。一つの言葉には収まらない。ただその全てがサイトに詰まっている。私がこの案件を2年経った今でも思い出すのは、「チーム」というものがあまりにも強く輝いていたから。『とても大変だった、だけど1人じゃなかった。』プロジェクトごとに、大変なことは必ず起こる、ただそれは最も辛いことではない。その大変な瞬間に1人だと感じることこそが、絶望だと思うから。

AI には担えない誰かという存在。そして、共に作っているという状況ほど恵まれた状況はないのだと、2年越しに身に染みてわかる。だからこそ、またいつか一緒に仕事をしたい、そう思うチームだった。

もうすぐ夏だ。アヤナバリへ行こう。

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Credit| Creative Direction: イム ジョンホ ( mount inc. ) / Art Direction, Planning, Design: 米道 昌弘 / Technical Direction, Development: 岡部 健二 ( mount inc. ) / Design, Information Architect: 山﨑 末鈴 ( mount inc. ), 渡辺 俊 ( mount inc. ) / Development: 須多 望 ( mount inc. ), 山下 亜加里 ( mount inc. ) / Edit, Information Architect: 堀江 由利子 ( mount inc. ) / Produce: 吉田 耕 ( mount inc. ) / Project Management, Information Architect: 楠本 莉沙 ( mount inc. ) / Design: 渡辺 祐樹,金 由佳 ( Re:design ) / Development: 磯 大將 ( Re:design ) / Design, Development: 渡辺 清彰 ( Re:design ) / Edit, Copywriting: 菅原 信子 ( euphoria factory ), 岡崎 拓実 / Translation: Hyunjung Lee ( Korean ), Alice Yang ( Chinese ), Rahima Saikal ( English ), Lynne Lessard ( English ) / Illustration: Anri Yamada PHOTOGRAPHY__ Produce: 尾見 真哉, 市川 悠 ( JXL ) / Photography: 加藤 純平, 行竹 亮太, 村上 拓也 / Assistant: 三橋 祐太, 岡村 篤, 遊馬 耕平 / Retouch: 古田 雅彦, 楠見 彩(amana) MOVIE _ Film director, Cinematographer: 深尾 大樹 ( 深尾映像研究室 ) / assistant, colorlist: 小野 陽平 ( 深尾映像研究室 ) / Compositor: 高橋 昂希 ( jitto inc. ) / Aerial & FPV Drone Pilot: Wah Bello, Silver Griawan / music&sound design: 佐藤 教之, 佐藤 牧子 ( Heima )

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