2025.10.17

[KOKUYO Vol.5]

追求したのはWebGLの

品質と最適化。

飛び出すノートに込めた、

コクヨの「全体像」と「好奇心」

「好奇心を人生に」。創業120年を迎えたコクヨが新たに掲げたコーポレートメッセージです。希望に満ち溢れ、ワクワクがつまったこのコクヨの世界観を、ウェブ上でのインタラクティブなユーザー体験として提供するため、私たちはWebGLの品質とパフォーマンスの最適化を追求しました。Vol.5となる「スペシャルコンテンツ編」では、コクヨからのメッセージをどのようにウェブ上での体験として表現したのか。その制作の舞台裏を振り返ります。まずはぜひ、こちらのコンテンツを体験してから記事をお読みください。

※PCでの閲覧がおすすめです。

目次

1. アイデア・コンセプト立案

スペシャルコンテンツで表現したかった2つのこと

ノートをめくるたびに次々と飛び出す、コクヨの“モノ”と“コト”。
ワクワクする世界が広がります。このスペシャルコンテンツは、単に120周年を記念する派手なプロモーションのためではなく、コクヨの過去・現在・未来を繋ぐ思想そのものを表現するために企画されました。

CD・ADの米道は、こう語ります。

「スペシャルコンテンツで表現したかったことは明確に2つ。
概念図の全体像『好奇心を人生に』というメッセージです」“概念図”とは、プロジェクト初期の方針策定で定めた「コクヨとは何か?」を俯瞰する下記の図のことです。

コーポレート、プロダクト、マガジンの各領域では、それぞれのスポットを表現することはできていましたが、唯一表現できていなかったのが概念図の全体感
コクヨの全体像を体験として見せることができる場所は存在していませんでした。
そして、コクヨのコーポレートメッセージでもある「好奇心を人生に」これらをいかにしてコンテンツに落とし込んでいくかが、企画時の肝となりました。

キャンパスノートから、飛び出す好奇心

コンセプト企画・設計の段階で検討された案は、20案以上。その中で私たちが最終的に選んだモチーフは「キャンパスノート」、構想の原型としてあったのが「飛び出す絵本」です。

ノートに書かれたアイデアが立体となり、飛び出し、人や社会と溶け合っていく——。

これは、コクヨが120年間続けてきた「人を想い、アイデアをかたちにし、モノやコトとして社会に届ける。それらが人びとに好奇心をもたらし、豊かな社会を形成する」ことのメタファーであり、コクヨでしか成立しないコンセプトでした。

Designer 井出

ストーリーの開発とイラスト制作は同時進行。手描きで1セットあたり60枚以上にも及ぶラフを描き、パラパラ漫画の原理で動きを検証。これを用いてプレゼンも行いました。オブジェクトがどのように飛び出し、どのように動くのかを具体的に示すことで、チーム内の認識を統一することが目的でした。本当に地道な作業でした。

好奇心を通すことで見える世界

「飛び出す絵本」というコンセプトが固まり、“好奇心”というテーマをどうコンテンツ内に体験として落とし込むのか。
その議論の中で生まれたのが、「AIグラスのようなものをかけると、ノートに描かれたものが立体的に飛び出して見える」というアイデアでした。
現実世界とワクワクが具現化された世界をつなぐ “フィルター”としての発想は、コクヨの新VIである594度の「斜めのライン」による世界の切り替え というコンセプトに発展しました。

現実世界(左)とワクワクが具現化された世界(右)。コクヨのVIである斜めのラインを通して見ることで、好奇心に溢れた世界が現れる。

TD 梅津

具現化した世界の背景に、元の現実世界(=ノートの平面)が見えていてもいいのでは?と発想したことで、両方の世界が共存する多層的な表現が生まれました。

2. 各制作フェーズ

コンテンツの物語性を決定づけるコピーライティング

コピーライティングを手がけてくださったのは小藥元さん。
コクヨの120年の歴史、未来のビジョン、社員インタビューなどの膨大なインプットをもとに、物語を紡いでいってくださいました。
ストーリーは「過去・現在・未来」を辿る形で構成されています。帳簿、文具、家具、空間、通販、THE CAMPUS、そしてコクヨの未来から構成される7つのセクション。121年目の挨拶文へと繋がっていきます。

CD・AD 米道

「コピーライティングにおける最も重要な方針は、『好奇心を人生に』と直接言わずとも、なぜコクヨが好奇心を語るのか、その理由を感じさせることにありました。ストーリーを読んでいただければ、コクヨには『好奇心』を語る資格があるのだと理解していただけると思います」

ワクワク感を表現した多彩なイラスト

イラストレーションを担当いただいたのは、髙橋あゆみさん。数百点に及ぶオブジェクトを、コクヨらしい「ワクワク感」「色彩の鮮やかさ」で描いていただきました。

躍動的でユニークなCGアニメーション

CGアニメーションを担当いただいたのは、MORIE Inc.のみなさん。動きのイメージを米道・井出中心にお伝えしイラストに動きをつけていきました。実装時も密な連携を行なっていただくことで、イメージ通りの世界をつくりあげることができました。

体験によりワクワク感をもたらす音楽

音楽を担当いただいたのは、有村 崚さん。
7つのセクションごとに楽曲を変化させるというアイデアを採用し、計8曲制作いただきました。単一のBGMではなく、物語の進行に合わせて音が追加されたり、雰囲気が変わったりすることで、体験が豊かになっていくことを表現しています。

CD・AD 米道

人間味を感じる音づくりを意識していただきました。電子音よりも、生楽器の音、環境音、道具の音、人の声などを重視し、「手触り感」のあるサウンドを有村さんにつくっていただいています。

3. 職域を超えて行われた地道な調整

3D制作にあたり、デザイナーの役割も拡張されました。
デザイナーの井出は、以下のように振り返ります。

「イラストラフの段階から3Dの制作をMORIE Inc.さんに依頼。
僕はBlenderを使用して、平面のイラスト素材を3D空間内に配置していきました。平面イラストを3D空間に配置する際、遠近感が不自然になってしまう部分や密度感を高めるための細かな調整が必要でした。
物量もかなり多く、全体を通してオブジェクト約500点が配置されており、かつなんどもやり直しを行なっています」

このような細かな調整以外にも、井出は平面のオブジェクトにBlenderでアニメーションをつけたり、JSONファイルを直接編集するなど、デザイナーの職域を超えて制作に挑みました。

4. 対峙した技術的課題

スペシャルコンテンツ制作の舞台裏には、いくつもの技術的挑戦がありました。インタラクティブな飛び出すノートという体験を届けるため、表現の質とパフォーマンスを両立させるために行ったことを紹介します。

ノートのページめくりとパフォーマンスの最適化

TD梅津は当初、物理的な正確性を追求するため、多数(100〜200個)の計算点を用いた物理演算で実装。しかし、この手法は、計算量が膨大になるためパフォーマンス面での課題が残りました。そこで、アプローチを見直し、16個の制御点から滑らかな曲面を生成する「ベジェ曲面」を生成。これにより、軽量かつ自然なページめくりが実現しました。

ノートの湾曲に追従する動く3Dモデル

TD梅津が技術的に最も困難だったと語るのは、「3Dモデルとページの連動」。ページがめくれる動きに合わせて、その上に配置されたアニメーションする3Dモデルをリアルタイムで追従させることでした。技術が実現可能かどうかの検証だけで、約2週間を要したといいます。

ノートの上に配置されている3Dモデル(鳥や人物など)は、多数の小さな三角形の集合体で構成されており、常にアニメーションしている状態。ページがめくれる動きに合わせて、この動いている3Dモデルの全頂点座標を取得し、ページの変形に追従させる必要がありました。

さまざまな検証を経て、最終的には追従させることに成功。これにより、ページをめくっている最中でも商品や人が生き生きと動き続けるという、本コンテンツにおける最も印象的な体験が実現されました。

BGMのシームレスな同期

ページの遷移に合わせて音楽が途切れることなく滑らかに切り替わるシステムを構築。完璧な同期を目指す高負荷な手法と、単純再生による遅延の課題を乗り越え、パフォーマンスと品質を両立させる中間的な手法を発見し、実装したといいます。
具体的には、下記の3つのアプローチを検証し、一番負荷の低い3番目の方法を採用しています。

1.完璧な同期

MP3のフレーム単位(0.001秒レベル)で完全に同期させる手法。極めて正確だがパフォーマンスへの負荷が非常に高く、古いスマートフォンではクラッシュの原因となったため断念。

​​2.単純な再生

次の曲を単純に再生する手法。簡単だが、曲の切り替わりでズレが生じ、体験を損なうため不採用。

3.1.と2.の中間的手法。

次に再生するBGMデータをあらかじめ読み込み、「いつでも再生できる状態」で待機させておく。ページがめくられた際、前の曲が再生されていた時間(たとえば10:00)を取得し、次の曲をその時間から再生開始する。

 3について、再生位置を探す時間が発生しないため、遅延が少ないといいます。厳密にはコンマ数秒のズレが発生する可能性はあるものの、人間には知覚できないレベルであり、パフォーマンスと品質を両立させる最適な解決策となりました。

5. チームの密な協力と連携体制がプロジェクトを押し進めた

大量の3Dデータと複雑な演算を扱うこのコンテンツは、パフォーマンスの問題が常についてまわりました。改善するために、各メンバーの迅速な対応が求められました。

アセットの圧縮や実機確認などのタスクがエンジニアに集中し、ボトルネックとなっていたことに危機感を覚えた開発担当の寺田は、デザイナーとエンジニアの連携をより強固でスムーズにするための方法を模索。非エンジニアでも作業を容易にするためのツールを導入することで、技術的な問題解決に留まらないワークフローの効率化を計りました。

具体的には、デザイナーの作業用PCにNode.jsを用いた自動圧縮・変換スクリプトや、VS Codeの拡張機能を利用したローカルサーバーを導入。これにより、非エンジニアでも自分でアセットを準備したり、自身のPC内でウェブサイトの表示を直接確認できるようになり、時間の大幅な短縮が実現しました。

TD 梅津

プロジェクト終盤、パフォーマンスの問題が深刻化し、多くの3Dモデルを削減することも検討。しかし、最終的には、D 井出、Dev 寺田を中心に地道な圧縮作業を徹底的に行ったことで、見た目を大きく損なうことなく公開にこぎつけることができました。
ページめくりは雑にせず、優しく扱ってください(笑)。

いくつもの困難を乗り越え、コクヨ120周年の記念すべき日に無事公開。
多くの人に体験を届けることができました。
お子さんが夢中になっているという声や、海外から驚きの声など、多くの反響をいただきました。

6. さいごに

全5回にわたってお届けしてきた、コクヨサイト制作の舞台裏。
ここに記したことは、そのごく一部にすぎません。
プロジェクトの道程には、言葉にしきれないほど多くの困難、そしてそこから得られる学びや気づきがありました。

下記は、このウェブリニューアルプロジェクトに関わってくださった制作メンバーのクレジットです。一人ひとりのお力があったからこそ、この大きな挑戦を最後までやり遂げることができました。誰ひとりかけても、今の形にはなっていなかったと思います。
そして何より、制作チームと真摯に向き合い、ともにものづくりの理想のかたちを追いかけてくださったコクヨのみなさま。
本当にありがとうございました。

制作者のひとりとして、このプロジェクトに携わることができたことを幸せに思います。この場を借りて、関わってくださったすべての方々に、改めて御礼申し上げます。

Executive Creative Direction: イム ジョンホ(mount inc.) / Creative Direction, Art Direction, Planning, Design: 米道 昌弘(mount inc.) / Technical Direction, Development: 梅津 岳城(mount inc.) / Design: 井出 裕太(mount inc.)/ Design, Information Architect: タイ トウオン(mount inc.) / Design Assistant: 劉 逸葳(mount inc.) / Development: 寺田 奈々(mount inc.), 須多 望(mount inc.)/ Edit, Information Architect: 堀江 由利子(mount inc.)/ Produce: 吉田 耕(mount inc.)/ Project Management, Information Architect: 楠本 莉沙(mount inc.)/ special thanks: 岡部 健二(mount inc.), 山下 亜加里(mount inc.), ハン ユジュン(mount inc.) / Project Management: 津留 正和(ingraft)/ Development: 小林 信次(まぼろし), 大出 直樹(ファクトリアル)/ Project Management, Planning: ハン・ジュホ(DFY), ソク・ミス(DFY) / Design: イ・ウンビ(DFY), キム・ヒョンモ(DFY), ユン・アミ(DFY), キム・ソヨン(DFY) / Development: キム・チョルジュン(DFY), オ・ハヌル(DFY), イ・ジンジェ(DFY), ペク・ミンギョン(DFY), キム・ジェリム(DFY) / Accessibility Supervision: 堀江 哲郎(Torque inc.), 阪口 卓也(Torque inc.), 小島 準矢(Torque inc.), 上瀧 悠平(Torque inc.), 本田 一幸(Torque inc.) / Illustration(History): 小林 千秋 / Copy Writing(corporate site, special site): 小藥 元 / Photography_Produce: 有馬 知良(JXL), 市川 悠(JXL) / Photography: 福岡 秀敏, 中村 実琴, 堀 陽真 / Hair makeup: 加古 高規, 亀島 チカ, 迫田 美沙希, 笹原 彩珠夏 / Interior Styling: 酒井 翼, 牧野 梨沙 / Photography(interview): 小山 奈那子 / Photography(products): タカハシ トミユキ / Assistant: 瀧川 やよい, 佐藤 萌, 鎌田 采花, 高橋 識如 / SPECIAL SITE_CG animation: MORIE Inc. / Illustration: 髙橋 あゆみ / Music: 有村 崚 / Copy Writing: 小山 佳奈(株式会社 上田家) / Translation: シルバ・リリア(LATINA FORTIS) / MAGAZINE_Direction / Planning: 伊藤 総研 / Edit, Planning: 山﨑 若菜 (itskn) , 森木 友香 (itskn) / Produce, Project Management: 山田 理沙 (itskn), 天本 季恵 (itskn) / Writing: 船橋 麻貴, 大芦 実穂 / Photography: 井上 昌明, 浦 将志, 嶋崎 征弘, 柿崎 豪 / Interior Styling: 竹内 優介

2025年10月9日。サイトローンチ後に開催された打ち上げにて。
2025年10月9日。サイトローンチ後に開催された打ち上げにて。

2025年10月17日 取材・文=堀江由利子(mount inc.)

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