2026.10.19
いい仕事は、どうやって生まれる? ーTakramとmount、ものづくりの「らしさ」をめぐる対話
Takramの仕事を見ると、どこか「Takramらしい」と感じる。けれど、何をもってそう感じているのかと聞かれると、簡単には説明できない。見た目なのか、着眼点なのか、それとも、つくり込み方なのか。
今回、Takramのデザインエンジニアのみなさんと交流会を行いました。制作事例から、個人の関心、チームでの仕事の進め方まで。話を聞くうちに、完成したものの手前にある、作り手と働き方が見えてきました。そして、その問いは私たちmountにも返ってきました。
違う仕事を、違う人が手がけている。それでも、なぜ同じ会社の「らしさ」を感じるのでしょうか。交流会で交わした話を手がかりに、考えてみたいと思います。


メンバー
Takram デザインエンジニア

松田 聖大さん
Design Engineer, Project Director

緒方 壽人さん
Design Engineer, Project Director

野見山 真人さん
Design Engineer, Project Director

出口 貴也さん
Design Engineer, Service Designer, Project Director

中本 八尋さん
Digital Product Designer, Design Engineer
mount エンジニア

梅津 岳城
TD

岡部 健二
TD

寺田 奈々
Dev

須多 望
Dev

山下 亜加里
Dev
執筆

須多 望
Dev
目次
自己紹介から見えてきた、それぞれの関心
お酒も飲みつつ始まった交流会。2時間想定だったのですが、最初のお互いの自己紹介で2時間経過していました。制作物を紹介すると、「どうつくったのか」「なぜそこまでやったのか」と話が広がっていく。そうして話しているうちに、制作物の背景にある、一人ひとりの関心が見えてきます。
同じ「デザインエンジニア」なのに、こんなに違う。
仕事の話に交じって、力学への関心から振り子の動きを可視化し、ビンゴの乱数にも自分で向き合ってしまう話があったり。サービスをつくるだけでなく、実際に使われ、組織に馴染んでいくところまで関わる仕事の紹介など。Takramはプロジェクトの内容からも感じていましたが、多種多様な方々の集まりでした。
同じデザインエンジニアとしての職種でも関心を向ける先も、経験も、力を注ぐところも違う。
その違いが、自己紹介を聞くほどに見えてきました。
制作物だけではわからなかった、作り手の人となりをこうして知り、作り手が何を気にして、どこまで確かめたいと思うのかが、仕事の進め方にも表れているように感じます。
こうした一人ひとりの関心や判断は、チームの仕事のなかで、どう活かされるのか、会が盛り上がるにつれ、そういったものも見えてきました。


進め方は決まっていない。Takramのプロジェクトのつくり方。
Takramの働き方について伺うと、印象的だったのはすべての制作物を一人の責任者が確認していく形ではないということ。
プロジェクトごとにディレクターとメンバーが集まり、それぞれの専門性を持って進める。あるプロジェクトではディレクターを務める人が、別のプロジェクトではメンバーとして参加することもあるそうです。
「みんな勝手にボール運んでって。みんなで合流するみたいな感じ。」
プロジェクトリーダーによって進め方も方向性も違い、「本当に違う会社みたいな感じかもしれない」とインターンから入社した中本さん。外からは一つの会社として見えていても、内側では、プロジェクトごとの違いがかなり大きいようです。
ルールがないのに、なぜ「Takramらしい」のか。
同じ手順でつくることよりも、
それぞれの作り手が、自分の関心や専門性を持って判断できること。そして、その判断をプロジェクトのなかで持ち寄れること。
そこが、私たちがTakramらしいと感じる仕事が生まれる、一つの手がかりかもしれません。
ではmountはどうなのだろう。
そんな話をしていると、今度はTakramのみなさんから、私たちに問いが返ってきました。


「mountらしさ」は、どこから来るのか
「mountの制作物をみると、細部の動きや気持ちよさに、共通したものがあるように感じる。」
Takramさん側も、mountの制作物にらしさを感じていたようです。
mount、特にエンジニアには特別なルールや技術はありません。動きの付け方やイージングの選び方、「この場合はこの動きにする」といった秘伝書のようなものが共有されているわけでもありません。一方で、細部まできちんとつくり込み、クオリティの高いものを目指すことは、共通の認識としてあります。けれど、そこにたどり着くための方法は、それぞれに委ねられています。
では、何を基準に「これでいい」「もう少しよくできる」と判断しているのでしょうか。
「バチバチにやる」でも、言い合うことが目的ではない。
岡部は以前から梅津の仕事を見てきたことを振り返り、「身近にいい感じの手本がいる。」「勝手に見て盗む」と話します。
さらに、代表イムと、エンジニア梅津が、率直に意見を交わす姿を見てきたことも。
アートディレクターが、制作物全体の責任を持つ。かといって、エンジニアがただ指示を受け取るだけではない。このやりとりを岡部は「バチバチにやる」と表現していました。
二人の、バチバチにやるというカルチャーはmountに引き継がれているのかもしれません。
大切なのは、強く言い合うこと自体ではなく、「こっちの方がいいと思う」という自分の判断を相手に伝えることなのだと思います。
相手に役割と責任があるからといって、自分が考えることまでは手放さない。
違和感を見逃さないのは大事だと思います。

言葉で伝わらなければ、つくって見せる。
意見の交わし方だけでなく、具体的な制作場面にも話が及びました。コクヨのサイト制作では、イメージを伝えるために、デザイナーが飛び出す絵本を作りました。writing & designではデザイナーが撮った影の動画が制作のヒントになりました。
言葉だけで説明するのではなく、作って見せる。できたものを前に、また意見を交わす。
エンジニアもモックをよく作り、それを見せながら意見を交わします。
こうしてみると、引き継いできたものは、動きの付け方や、技術だけではなかったように思います。近くの人の仕事を見て、意見を交わし、自分でも試してみる。その繰り返しの中で何を良しとするのかの基準も少しづつ自身に身についている。
外から見たmountの「らしさ」には、そんな制作の日々が現れているのかもしれません。

「思った以上に泥臭いな。」
意見を交わしながら制作物をよくしていく。Takramでもそういった場面があるようです。
誰かがつくったものを見て、他のメンバーも気持ちが上がる。「それだったら、これも!」と新しい案が重なり、良いものができていく。ただ、そうやってうまく進むときもあれば、せめぎ合わなければよいものができないときもあるそうです。
Takramにも、mountにも、個人の判断と他者とのやりとりがあります。その上で、相手の案に何かを重ねるのか、もう一歩踏み込んで問うのか、一旦任せてみるのか。その関わり方に、人やチームごとの違いがあるのだと思います。
共通しているように感じたのは、
目の前のものをもう少しよくできないかと考えていること。
そのために自分で試作する。伝えにくい動きをコードにする。相手に別の案を伝える。完成したものからは見えにくい、そうした過程の話が今回の交流会には多くありました。
かつてクライアントとしてTakramと関わっていた出口さんは、外から抱いていた印象との違いについて、こう話していました。
「思った以上に泥臭いな。」
私たちが「Takramらしい」「mountらしい」と感じているとき、見ているのは、こういった過程を経た後の姿なのかもしれないです。

「らしさ」は、完成したものより手前にある。
「らしさ」とは、ものを作るための技術やルールではなく、作り手が何に関心を持ち、何を良いとし、それをどう伝えているかにも宿るのではないかと感じます。
その判断は、自己の中だけで完結するものでもありません。誰かの仕事を見たり、意見を交わす中で育ち、次の仕事へ伝播する。それが重なっていったものを、外からは会社の「らしさ」として感じているのではないでしょうか。
Takramの仕事の背景を知ることは、自分たちが当たり前にしている仕事の仕方を見つめ直すことでもありました。
自分たちは、どこで納得し、どこでもう一度試そうと思うのか。その基準は、誰との仕事の中で育ってきたのか。これからのmount「らしさ」も、そんな日々の判断と人との関わりの中で作られていくのだと思います。

